抽象的な言葉が並ぶだけで具体策が示されなくては、本気度は疑わしい。政治への信頼を回復させ、疲弊する地方の生活を守るために全力を尽くしてもらいたい。

 石破茂首相が4日、就任後初の所信表明演説を国会で行った。自民党派閥裏金事件を巡り「政治への信頼を取り戻し、納得と共感をいただきながら安全安心で豊かな日本を再構築する」と述べた。

 裏金問題を指摘された全議員に反省を求め、ルールを守る倫理観確立に全力を挙げるとも訴えた。

 順守すべき法律を作る立法府で、あえて「ルールを守る」と強調せざるを得ない現状は残念だ。

 そもそも与党だけで成立させた改正政治資金規正法は「抜け穴」が多い。演説で言及したのはこの改正法の順守程度で、踏み込んだ中身は示さなかった。

 共同通信の直近の世論調査では、首相交代で「政治とカネ」問題が解決に向かうかについて「向かわない」とする回答が73%に上った。信頼回復には、改革の具体像を練ることが不可欠だろう。

 少子高齢化にあえぐ地方を元気づける施策は急務だ。

 演説で首相は地方創生について「私が先頭に立って国、地方、国民が永続的に取り組む機運を高める」と語り、交付金を当初予算ベースで倍増するとした。推計人口が210万人を割り込む見通しの本県には歓迎すべきことだ。

 今夏は本県を含め全国的にコメが品薄状態になるなどし、食料安全保障の在り方が問われた。首相は演説で農林水産業を「地方の成長の根幹」と述べ、活性化に向けた取り組みに意欲を見せた。

 物価高に賃上げが追いつかない中、演説では、最低賃金の目標を2020年代に全国平均で1500円とした。経済の好循環に向けた具体的な取り組みが必要だ。

 初代地方創生担当相を務めた首相には、地方の実情を踏まえた持続可能な施策を期待したい。

 エネルギー政策では、自給率を高めるため「原子力発電の利活用」を進める考えを示した。岸田文雄前政権の方針を踏襲する形だが、本県にある東京電力柏崎刈羽原発の再稼働問題では、地元の意向を無視した判断は許されない。

 気がかりなのは、自民総裁選中の訴えと、首相就任後の発言にぶれが見えることだ。

 所信表明演説では、安全保障を巡り、日米同盟を基軸にした「現実的な国益を踏まえた外交を進める」と述べた一方、総裁選で主張していた日米地位協定の改定には触れなかった。

 総裁選の最中には否定的だった早期の衆院解散・総選挙を、総裁になり、翻した前例もある。

 難しいかじ取りが求められる政策課題はあまたある。聞き心地のいい言葉を重ねても、行動が伴わなくては国民の納得と共感は得られぬと首相は肝に銘じるべきだ。