一面に深紅のじゅうたんが広がっていた。休日に長岡市の雪国植物園へ曼珠沙華(まんじゅしゃげ)を見に行った。ヒガンバナと言う方が身近かもしれない。訪れた日は7分咲き程度だったが、見応えは十分。満開になれば燃えるようだろう
▼葉はなく、細い茎に大きな花が咲く。逆さにしたらまるで線香花火だ。毒があり、球根の部分は特に強い。そのため、モグラやネズミよけとして田のあぜなどに植えられた。だがデンプンが多い球根は、すりつぶして何度も水にさらし、毒を抜くと食用にもなるというから不思議だ
▼広大な園内を歩くと、豊かな植生に出合う。ツバキなどの見慣れた植物がある。愛らしい花を咲かせた名も知らぬ草木もある。棚田跡で、坂道で、場所ごとに多様な表情で出迎えてくれた
▼植物園のパンフレットにこう書いてあった。「地球の自然を主役とし、力を持ち過ぎた人間が脇役に徹し、自然と相談しながら共生の道を歩く」。今年は造園を始めて40年目のシーズンという。自然に耳を傾け、維持するのは簡単ではないだろう
▼園からの帰り道、車を走らせた山道は薄暗かった。フジやクズなどのつるが生い茂り、日の光を遮っていた。里山の木々は、さながら緑のモンスターに絡め取られたようだった
▼林はジャングルと化していた。見通しもきかず、うかつに近づけば野生の生き物とばったり出くわすかもしれない。植物園との落差を目の当たりにした。携わる人が減り、荒廃した里山を、私たちはどうしたら取り戻せるのか。