停戦交渉が滞っているうちに時間がたち、この瞬間もかけがえのない命が失われている。長期化する人道危機から一刻も早く人々を救わねばならない。

 パレスチナ自治区ガザの戦闘は、7日で開始から1年となった。

 イスラム組織ハマスの戦闘員らがイスラエルに奇襲攻撃し、住民を殺害したり、ガザに連行して人質にしたりしたテロ攻撃を機に、イスラエル軍が報復としてガザへの攻撃を始めた。

 ◆深刻な人道危機続く

 奇襲攻撃でイスラエル側では1200人ほどが亡くなり、200人以上が人質になった。

 ガザ側ではイスラエル軍による地上侵攻により、1年間で4万1800人以上が亡くなっている。民間人の犠牲が多く、死者の6割超は女性や子どもだ。

 いまだに1万人以上ががれきに埋もれたままとみられ、実際の死者はさらに増えるに違いない。親を亡くし、孤児となった子どもも多くいて、ストレスや孤独感を強めている。

 ハマス掃討を理由に、多くの住民が自宅を追われ、何度も避難を繰り返してきた。

 避難者はガザ人口の9割に当たる190万人以上だが、ガザの境界封鎖によって、人口の96%が十分な食料を手にできていない。多くの子どもが飢えに苦しんでいる。

 世界保健機関(WHO)などは、非常時に命を守るには一人1日に最低15リットルの水が必要だとする。しかし現在供給されているのは5リットルに満たない。

 不衛生な水に頼らざるを得ず、下痢や肝炎を引き起こして死亡するケースもある。

 ほとんどの住民が極めて困難な状況に置かれている現状を見過ごしてはならない。国際社会のさらなる支援が要る。

 こうした事態の発端となったハマスのテロ攻撃が非難されるのは当然だ。

 だからといって、イスラエルによる過剰な攻撃は許されるものではない。

 イスラエル軍はガザ全域をほぼ掌握し、「武装組織としてのハマスはもはや存在しない」としながら、攻撃の手を緩めず、連日数十人が死亡している。

 国際法は民間施設への攻撃を禁じているが、イスラエル軍はハマスの司令部が置かれていると主張して学校への空爆を繰り返しており、9月だけで10校以上が爆撃された。

 難民キャンプで避難所として使われている学校まで攻撃している。1年で5回も繰り返し空爆された学校もある。

 ガザ全体では6割の建物が破壊され、病院も危機的な状況に陥っている。

 連日多数の負傷者が運ばれる中、病院への攻撃は500回に上り、ガザ全体で36ある病院のうち、17病院が部分的に機能しているだけだ。電力や医療品も著しく不足している。

 ◆停戦実現を急がねば

 イスラエルは親イラン民兵組織ヒズボラの掃討を目的に、隣国レバノン南部にも侵攻し、国際社会の批判が強まっている。

 ヒズボラやハマスを支援するイランがイスラエルに報復し、中東の戦火拡大が危惧される。

 そうした中でガザ住民から「国際社会の関心がレバノンに移ってしまった」と絶望する声が聞かれるのは切ない。

 国際社会はガザの悲惨な人道状況から注意をそらさず、停戦を早急に実現させるために力を尽くしたい。

 人質になったイスラエル人のうち約100人は現在もハマスの拘束下にある。これまでに、イスラエル軍の空爆に巻き込まれ、亡くなった可能性が高いという人質もいた。

 人質を無事解放し、中東情勢を安定させるには、ガザの停戦が不可欠だ。これ以上、犠牲を出さぬように、憎悪の連鎖を断ち切ってもらいたい。