「心尽くし」と言われると、真心を込めた手料理などを思い浮かべる。実りのこの時季は心地いい言葉だ。でも「心尽くしの秋」の意味は違うようだ。古典では、心をへとへとにすり減らし、気持ちが千々に乱れる時節らしい

▼主食のコメをはじめ値上げラッシュのニュースに触れて思わず通帳の残高をのぞいたり、年金の支給日を確かめては、ため息をついたりする人もいるだろう。昨今、私たちの生活も「心尽くしの秋」に違いない

▼帝国データバンクによれば、今月は2911品目の食品の値上げが予定される。品目数は昨年より減ってはいるが、調味料やお菓子にペットボトル飲料など、おなじみの商品が目立つ印象だ

▼6月の実質賃金は2年3カ月ぶりにプラスに転じた。では、ゆとりが生じたかといえば、さにあらず。同月の家計調査では消費支出は減っている。多くの人は、相変わらず暮らし向きは楽ではないと感じているようだ

▼安売りの広告を手にスーパーを巡り、まとめ買いをする。光熱費に神経をとがらせ、外食やレジャーは我慢、我慢だ。家計の切り詰めはいつまで続くのか。「値上げ慣れ」に加えて「節約疲れ」という言葉を耳にする

▼人生の夢や目標を実現するために節約する。こんな倹約なら希望も持てるが、現実には節約に心を尽くし、くたびれ果てている人が多いのだろう。新首相は長年、防衛の抜本強化を訴えてきた。解散して民意を問うならば、まずは納得できる「家計防衛策」を示していただきたい。

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