やるべきだと分かっていても、なかなか取りかからない。仕事や宿題は早めに始めた方がいいのだろうが、わが身を顧みても締め切り間際まで腰を上げようとしなかった
▼地震など災害への備えもその一つ。家庭でやるべき備えは多い。試しに生成AI(人工知能)に尋ねてみると、家具の固定や非常持ち出し袋の準備、避難場所の確認など、いくつも列挙した
▼納得することばかりである。とはいえ実際に準備するかというと、やはり腰が重くなる。AIのアドバイスは的確だが、無精者をやる気にさせるには何かが足りないように感じた
▼防災の専門家である名古屋大名誉教授の福和伸夫さんと話す機会があった。開口一番に言われた。「自宅の家具の転倒防止をしていますか。(対策しないと)命はないですよ」。南海トラフ巨大地震の災害対策に関する政府の作業部会で主査を務める福和さんの言葉が胸にズシリときた
▼巨大地震が相次ぐ日本で犠牲者を出さないためには行政任せにせず一人一人が事前に対策するしかない。だが、多くの人が家具の転倒防止すらしていない。「当事者意識のない人が多い」。福和さんは講演会などで、対策を促そうとあえて刺激的な言い方をする。その言葉に背中を押され、こちらも寝室のタンス用に突っ張り棒を購入した
▼AIの口調は無機質だが、人が発する言葉は良くも悪くも熱を帯びる。いい方向に働けば、聞く者の心を動かし、何かを成し遂げる原動力にもなる。そんな熱を大切にしたい。