ただ高速道路を走行していただけだった。温泉帰りの20代の5人。親戚の見舞いに向かうお年寄り3人。トラックを運転する50代ドライバー。9人はトンネル内で天井板の崩落に遭遇し、唐突に人生を断ち切られた
▼9人には何の過失もない。まさかの事故。怖さと不条理を、誰もが思っただろう。2012年12月、山梨県の中央自動車道「笹子トンネル」の事故は、インフラを維持管理する責任の重さを痛切に知らしめた…はずだった
▼昨年度までに修繕や撤去が必要とされた全国の自治体管理の道路施設のうち、1万353の橋と167のトンネルで何ら対策が取られていなかった。本県では道路橋1854とトンネル18で未対応だった。橋は対象の43%が手つかずで、その割合は全国で最悪だった
▼要因の一つは財政難とされる。国の社会資本整備費を増額しない限り、40年度までに新設はもちろん、維持管理や改修すらままならなくなるという試算もあるから深刻だ。高度成長期に整ったインフラが軒並み更新時期を迎えている
▼県内でも経年劣化によるとされるインフラ事故は起きている。17年に出雲崎、18年に聖籠で大きな道路陥没があった。出雲崎では転落した車の運転者がけがをした。取り返しのつかない事態を招いた可能性もある
▼必要なインフラも安全であってこそ。人口が減り、発展し続ける社会が当たり前ではなくなった現実を、受け入れざるを得ないのかもしれない。地方が割を食うことになってはならないけれど。