ぽっかり。もう一つ、ぽっかり。大きな穴が心に二つも空いた。幼い頃から親しんだ人がこの世に別れを告げるのは喪失感が大きいけれど、それが続くとなると…。きのう、俳優の西田敏行さんと児童文学作家の中川李枝子さんの訃報が相次いだ
▼西田さんは数え切れないほどの映画やドラマに出演してきた。個人的には「池中玄太80キロ」が印象に残る。西田さん演じる通信社カメラマンが同僚や上司と繰り広げた丁々発止の口げんかが忘れられない。「すっとこどっこい!」「やってられるか!」。信頼する仲間同士がののしり合う姿はどこか温かみが漂った
▼「田中角栄を演じてみたい」と、よく口にしていたという。多くの歴史上の人物に独特の造形を与えてきた名優がどんな今太閤を演じたか。もう見ることがかなわないのが返す返すも惜しい
▼中川さんの数々の絵本にも夢中になった。実妹で、イラストを担当した山脇百合子さんとコンビを組んだ「ぐりとぐら」シリーズは、今もわが家の本棚の一角を占める
▼絵本の中で、主人公の野ねずみが歌う。〈ぼくらのなまえはぐりとぐら このよでいちばんすきなのは おりょうりすること たべること〉。読みながら適当なメロディーを考えて口ずさんだことを思い出す。中川さん作詞のこの歌は、読み手の数だけメロディーがあったのかもしれない
▼幼かった自分が成長する上で、お二人には心にずいぶん栄養を与えてもらった。喪失感は大きいけれど、感謝とともに見送りたい。