米国アリゾナ州にノガレスという町がある。背の高いフェンスに面しており、向こう側はメキシコ・ソノラ州のノガレスだ。世帯収入は米国側の3分の1で、道路はひどく荒れている。10代の子の多くは学校に通っていない
▼国家間の格差はなぜ生じるのか。背景には政治や経済といった社会制度の違いがある。ことしのノーベル経済学賞はこうした仕組みを解明した、米国の大学教授3氏に決まった
▼このうち2氏の共著「国家はなぜ衰退するのか」は、冒頭でノガレスの実情を描く。気候などの地理的条件や文化的な共通点があっても、社会制度の違いにより繁栄の度合いは変わってくるという
▼3氏の研究は、法の支配が乏しく政治が腐敗したり、国民を搾取するような制度があったりする社会の成長は長続きしないと裏付けた。繁栄には民主主義的な制度が重要という。市民に政治参加の機会があれば、経済発展の果実が広く行き渡る制度の導入につながるからのようだ
▼3氏のうちの一人、マサチューセッツ工科大のダロン・アセモグル教授はインタビューで、権威主義国家の中国について「長期的で持続的な成長を達成する上では問題がある」と答えた。実際の先行きはどうだろう
▼同教授は「私たちの研究は民主主義を支持している」とも述べた。どんな社会制度をつくるか。民主主義の国では選挙の結果が反映される。わが国は今、衆院選の真っ最中だ。投票が私たちの暮らしを左右するのだから、しっかり向き合わなければ。