「今年は何枚にしましょう?」。なじみの郵便局員が、年賀はがきの注文を聞きに来た。もう新年の準備か…。気が重くなる方もいるだろう

▼2025年用のお年玉付き年賀はがきは11月1日に発売される。1枚85円で昨年から3割以上の値上げだ。発行枚数は約10億7千万枚と2割以上減る。ピークだった03年の45億枚近くから20年ほどで4分の1になった

▼交流サイト(SNS)拡大の影響は大きい。スマホやパソコンで蛇の絵を添え「新年もよろしく」-。わずかな通信料で一斉送信できる時代である。SNSと無縁なお年寄りはどうか。「本年をもちまして-」。終活の一環で年賀状じまいをする人も増えている。物価高騰の影響もあろう

▼〈初便りみな生きてゐてくれしかな〉。この句を詠んだ石塚友二は1906年、現在の阿賀野市の農家に生まれた。同世代の多くが戦死するなどした。友の消息を確かめる年賀状は、石塚にとってどんなに大切な存在だったことか

▼筆まめだった夏目漱石の年賀状は、意外にも「恭賀新年」とだけ書いたものが多い。「賀寿」は川端康成だ。名文家は奇をてらわない。はがきの余白に万感が託されすがすがしい。手紙文化研究家の中川越(えつ)さんが著書「文豪に学ぶ手紙のことばの選びかた」に書いている

▼年賀状準備で大切なのは相手を思う時間を楽しむことだと中川さん。年の瀬まで時間はある。書状でなくても、すぐに近況報告ができるご時世だ。儀礼より、真心を届け合う年の始めにしたい。

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