戦局が悪化していた1943年10月、学徒出陣が始まった。東京・明治神宮外苑で開かれた壮行会の様子は、今もテレビなどで目にすることがある。雨の中、多くの学生が銃を手に行進した

▼同様の壮行会は国内はもとより、朝鮮半島や台湾、満州でも開かれた。現地出身の学生らも戦場に向かった。日本の統治下だったとはいえ、生まれてもいない国のために命をかけねばならなくなった青年らは、どんな思いで出征したのだろう

▼81年後の現在も他国の戦争に駆り出される兵士がいるのか。ウクライナ侵攻を続けるロシアに、北朝鮮兵1万人以上が送られるという。既に数千人を移動させたとの見方もある。こちらは事実上の軍事同盟に基づく派兵とみられ、精鋭部隊も含まれるというから学徒出陣とはかなり様相が異なる

▼ただ、北朝鮮兵は過酷な前線で「使い捨て要員」にされるとの指摘もある。侵攻の長期化でロシアは兵員不足に陥っているという。消耗が激しいロシア軍の穴埋めのように見え、戦闘のさらなる泥沼化を招きかねない

▼北朝鮮の人々の心中はうかがえないが、前線付近で兵士18人が脱走したとか、派兵のうわさが広まることを恐れた当局が派遣兵の家族を集団移住させているとの情報もある

▼指導者の命令で、人が捨て石のように扱われるのが戦争だと改めて思う。そして何より戦禍の拡大が心配だ。ウクライナのゼレンスキー大統領は派兵を「世界大戦への第一歩だ」と批判した。そんな事態を招いてはならない。

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