以前お世話になった建築会社から、創業記念の「粗品」が届いた。箱を開けると防犯カメラだ。よく見ると「ダミー」とある。模造品だ。直径10センチほどの半球型で赤色灯が光る。見た目は本物そっくりだ

▼住宅を狙った凶悪な強盗が相次ぐ。業者はそれを心配し、一品を選んだのだろう。ただ拙宅の小さな玄関からすると、高価に見えるカメラはどうも不釣り合い。どこに設置したものか思案している

▼交流サイト(SNS)で実行犯を募る「闇バイト」による強盗や特殊詐欺が絶えない。即日十数万円、経験不問…。「ホワイト案件」などと、ご丁寧に合法作業と称する求人もあるようだ。それを信じる若者が多いのが悲しい

▼捜査本部ができた首都圏の連続強盗は、手配中の容疑者が本県で逮捕された。北海道や東北にも移動していた。命を奪う凶行は、全国どこでも起きかねない。指示役は海外にいる可能性があり、国際捜査も求められる

▼防犯対策の一環で、政府はボランティアによるパトロール強化や防犯カメラの設置補助も検討しているようだ。防犯カメラは使い方次第で監視カメラになる。常に見張られているような社会は息苦しいのだけれど

▼良寛に〈盗人にとり残されし窓の月〉という句がある。住まいの五合庵に泥棒が入った。金目の物などない。良寛はわざと寝返りを打ち、着ていた衣を盗ませた。逸話の詳細は何パターンかあるようだが、禅僧の優しさがにじむ。防犯カメラならぬ「窓の月」が一部始終を見ていたか。

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