「ルールを守る」。今回の衆院選で石破茂首相は繰り返し、こう強調した。怒りを通り越し、あきれたり、しらけたりした有権者は多かったのではないか。そんな当たり前のことを言わねばならないのか、と
▼自民党派閥の裏金事件が直撃し、与党は過半数割れに追い込まれた。有権者の嘆きが現れたのだろう。決まり事を守るという当然のことを、改めて強調せねばならなくなった事態はあまりに情けなかった
▼「政治は最高の道徳である」。政界にはこんな言葉が伝わる。政治は世の人々の利害を調整する行為なのだから、最高の道徳と呼べるぐらいの姿勢で取り組まねばならない-。おおよそ、こんな意味のようだ。道に反するような行いをしてはならぬという戒めでもあったのではないか
▼かつて清廉な政治を標ぼうした福田赳夫元首相は、この言葉を好んで使ったという。福田元首相が創設した派閥の系譜を受け継いだのが旧安倍派である。その旧安倍派が震源地となって裏金事件が広がったのは皮肉と言うほかない
▼政治不信とは、道徳や理念をなくした政治に対する、有権者の憤りだろう。何かにつけて党利党略を優先したり、小手先で批判をかわそうとしたり、選挙の時ばかり耳に心地よい言葉を並べたり。有権者はそんな姿に眉をひそめている
▼国民の暮らしは厳しくなる一方だ。多くの課題に取り組むためにも、政治改革を進めなければ。党派を問わず、道徳の裏打ちがない言動は有権者に見透かされることは間違いない。