山あいの錦鯉産地では「池上げ」の季節だ。野池で伸び伸び育った鯉を越冬用ハウスに移す。生産者は池の水に漬かり、きらめく魚体を傷つけないよう素手で優しく抱え上げる。鯉への愛情がにじむ
▼長岡市山古志地域や小千谷市などの産地は、20年前の中越地震で壊滅的な被害を受けた。野池は崩れ、飼育施設への送電も止まって大量の鯉が死んだ。崩れた道路を歩いてムラに入り、酸素を送るポンプを発電機で動かして鯉の命をつないだ生産者もいたという
▼域外への道路が寸断された山古志では、ヘリコプターを使った救出作戦も展開された。「泳ぐ宝石」の伝統を絶やしてはならぬ-。錦鯉は闘牛とともに復興のシンボルになった。関係者の執念によって錦鯉産業は復活を遂げた
▼ところが、新たな逆風に見舞われた。東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出が始まると、中国は日本産農産物の輸入を停止した。錦鯉も、一大市場である中国に輸出することができなくなった
▼10月、中国政府がようやく本県などの一部養鯉場からの輸出を受け入れる方針に転換したことが分かった。早期の完全な再開が待たれる。県などは、さらに働き掛けを続けるという
▼国と国の関係悪化に巻き込まれたことは何ともやりきれなかった。おとなしい性格で縄張り争いもしない錦鯉は「平和のシンボル」として扱われることがある。色彩豊かな美しさに目を奪われるのは万国共通だろう。本県で育った平和大使に、世界中へと出向いてもらいたい。