手元の辞書は「寛容」の意味を「心が広くて、よく人の言動を受け入れること」と説明する。きょう16日は「国際寛容デー」という。数多くの国際デーがある中で、これはテーマが少し抽象的な記念日だ

▼国連教育科学文化機関(ユネスコ)が1995年のこの日に採択した「寛容に関する宣言」に基づき、翌年の総会で制定された。95年はどんな年だったのか。ロシアが、独立を求めるチェチェン共和国の首都を制圧し紛争が激化した

▼米国では、太平洋戦争終結50年の節目に企画された「原爆展」が中止の憂き目に。中国は地下核実験を強行し、イスラエルのラビン首相が暗殺された。日本では、1月に阪神大震災、3月に地下鉄サリン事件が発生した

▼不安と不信が世界を覆った年だった。だからこそ国連は「寛容」という言葉で、文化や生き方の多様性を認め、対話による相互理解を進めるよう求めたのだろう。それから約30年。寛容の精神はむしろ薄れてしまったようだ

▼ロシアやイスラエルは今も戦火の当事者だ。気候変動による洪水や干ばつなどの天災も相次ぐ。そんな中で米国ではトランプ氏が再び大統領に就く。地球温暖化を「でまかせ」と言い、移民を敵視する人である

▼日本も、学校では不登校やいじめ、大人社会でもハラスメントが増え続ける。この30年でなくした最も大きなものは、寛容の心なのかもしれない。ギスギス、イライラより、ワクワク、ニコニコの時間を増やしたい。冬に向かう日々、心をぬくめたい。

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