2015年に制定された十日町市民憲章の一節を引く。〈野に山にヒトは学び 里に町にヒトは勤しむ 縄文の炎を今日に伝えて 雪の白に明日を描き 限りない大空のもと 十日町市の大地に生きる〉。起草したのは、詩人の谷川俊太郎さんだ

▼太古の昔から雪や自然とともに生きてきた人々の営みを、未来につないでいこうという思いが伝わってくる。優しく、それでいて強い思いである。谷川さんの言葉はいつも、こちらの心にするりと入り込んでくる

▼私たちはずっと、その言葉と並走して生きてきたように感じる。詩の授業で「朝のリレー」に出合い〈この地球では いつもどこかで朝がはじまっている〉の一節にうなずいた。谷川さんが翻訳した絵本「スイミー」にわくわくした

▼〈空をこえて ラララ 星のかなた〉。アニメ「鉄腕アトム」の歌詞を口ずさんだ。詩「かっぱ」の〈かっぱかっぱらった〉〈かっぱなっぱかった〉というフレーズに笑いこけ、何度も反すうした

▼谷川さんが世を去ったという。本県との縁も深い。校歌の歌詞を書いてもらった学校がいくつもある。来年1月には新潟市中央区の県立万代島美術館で、谷川さんの絵本をテーマにした企画展が開幕する

▼〈さよならは仮のことば 思い出よりも記憶よりも深く ぼくらをむすんでいるものがある それを探さなくてもいい信じさえすれば〉(「さよならは仮のことば」)。別れは仮のことなのだろう。あの言葉もこの言葉も、私たちの中で生きている。

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