世知辛い日常を離れ、何も考えずにただ、ぼーっとしたい。そんな思いを胸に、日々を過ごしている人が周囲に何人かいる。そのほとんどが願望にとどまり、実現していないようだが

▼一見、無駄のように見える行いが「競技」になっている。その名も「ぼーっとする大会」だ。2014年に韓国で始まった。ことし5月にソウルで開かれた大会では、約120人が虚空を見つめた

▼昨年には日本にも上陸した。今秋には福岡、大阪、東京の3都市で開かれ、東京大会には小学生を含む100人ほどが出場した。主催者は現代人の心に余白をつくり、幸せに生きる人を増やすことが目的と説明する

▼ぼーっとする姿などを観客らが評価する「芸術点」と、心拍数の変化でリラックスの度合いをみる「技術点」で競う。原則として90分間、会話が禁じられ、居眠りをしたり笑ったりしたら失格だ。スマートフォンも見ることはできない

▼仕事、子育て、習い事、介護…。現代人は年代を問わず忙しい。映画や動画を早送りで見る時代である。かけた時間に対する成果を意味する「タイムパフォーマンス」なる言葉も若者を中心に定着した。無為に時を過ごすことへの風当たりは、いつになく強い

▼大会は世界に広がる。衆人環視の中で無の境地になれるかは分からないが、無用の用を知る機会にはなる。わが心に余白はあるか。時折、問うてみるのもいい。「ボーっと生きてんじゃねーよ!」と、テレビのキャラクターに𠮟られるかもしれないが。

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