「寅が日本酒を飲むのは、その土地の文化に触れたいからなんです」。映画「男はつらいよ」シリーズのロケで新潟を訪れた山田洋次監督は、こう話していたという
▼旅の宿でおちょこを口に運んだ寅さん。くいっとやると、にわかに表情がゆるむ。そんな場面を思い浮かべながら、その土地の酒を口に含む。寅さんならずとも、地元の文化を味わったような気分になる
▼私たちは日ごろ、新潟は米どころ、酒どころだと胸を張る。けれど、かつての新潟米の評価は散々だった。農地はたびたび洪水に見舞われ、土は肥えたが、窒素成分の多さはうまいコメづくりにはむしろマイナスだったという
▼先人は土壌や作物の品種を改良し、良質米を育ててきた。コメを原料とする日本酒も、軟水が多いといわれる新潟の水をはじめ、地元の気候風土に合った造り方を追い求めてきた。やはり日本酒は、地元の文化そのものなのだろう
▼日本酒をはじめとした伝統的酒造りが国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録される見通しになった。複数の発酵を同じ容器の中で同時に進める製法は、世界でも珍しい。さらに、各地の風土に根ざした文化としての存在感も大きい
▼新潟の酒の持ち味である「淡麗辛口」は、地元の風土が生み出したとされる。加えて近頃は、コメの持つ甘みやうまみにこだわる、個性的な銘柄も増えた。新潟の酒はいっそう奥行きを増している。冷やもよし、人肌もうれしい季節になった。さて今夜のお供は-。