世界的な選挙イヤーと言われた今年、国内では従来はほぼ想定されなかった奇異な選挙風景が目についた。選挙は自由で開かれたものでなくてはならないが、制度がゆがめられては困る

▼候補者による他候補への選挙妨害が刑事事件になったのは衆院東京15区補選。政治団体代表らは過激な妨害行為を動画チャンネルに投稿していた。再生回数や登録者数に応じて収益があるため「落選運動をビジネスにしたい」としていた

▼都知事選に19人を擁立した別の政治団体は、候補者に割り当てられるポスター掲示板の枠を寄付金で譲る「掲示板ビジネス」を展開した。団体の代表は兵庫県知事選に、再選を目指す前知事の応援を公言して出馬。前知事を擁護するとして動画チャンネルに100本以上投稿し、総再生回数は1500万回に迫った

▼例えば同様に本命候補の当選を狙って大勢の仲間が立候補すれば、実質的に本命支援一色の選挙運動が可能になってしまう。供託金が必要とはいえ、過去に実例があったことを宮澤暁さんの著書「ヤバい選挙」で知った

▼1963年の都知事選は13人が立候補したが、大半は革新統一候補を妨害する右翼系候補だった。革新候補の演説を軍艦マーチでかき消し、街宣車に複数でつきまとった。後に選挙違反捜査で与党関係者が逮捕され、組織的な工作が明らかになった

▼いろんなことを考える人がいるものだ。知恵を働かせるのは大切なことだが、使い方を間違えてはいけない。法を犯すのは論外である。

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