医療機関での混乱やトラブルを防げるか、懸念される。現状では利用者の不安を払拭できたとは言い難い。政府はスケジュールありきではなく、安心できる体制構築を第一に進めてほしい。
現行の健康保険証の新規発行が2日、停止された。マイナンバーカードに保険証の機能を持たせた「マイナ保険証」への移行が本格的に始まるためだ。
ただ、発行済みの現行保険証は有効期限内ならば、最長で2025年12月1日まで利用できる。
マイナ保険証を持っていない人には保険証代わりとなる「資格確認書」が届けられ、最長5年間は使用できる。
医療機関での本人確認方法は当面、3種類が混在する形になる。
さらに、「資格確認書」と似た名称の「資格情報のお知らせ」が自治体などから届く人もいるが、単独では利用できない。トラブルでマイナ保険証が医療機関で読み取れない時に、マイナ保険証とセットで提示し使うものだ。
医療機関だけでなく患者らも、利用時には注意が必要になる。
政府はマイナ保険証のメリットに、データに基づいた治療法の選択や過剰な投薬防止ができることを挙げ、「より良い医療が受けられる」としている。
しかし、既に医療機関では、本人確認のための顔認証や患者本人による暗証番号の入力がスムーズにいかないといったことが起きている。今後切り替えが進めば、さらにトラブルが増えかねない。
マイナカードの保有率は、24年10月末で全人口の75・7%となり、そのうち保険証登録を済ませた人は8割を超えている。
だが実際に医療機関や薬局でマイナ保険証を利用したのは、15・6%にとどまる。背景には、マイナンバーを巡る情報のひも付け誤りで混乱が生じたことへの国民の根強い不信感がある。
新潟日報社など地方紙が今夏に実施したアンケートでは、マイナカードを持っているが、健康保険証として使わない理由について、「従来の健康保険証が使いやすい」「情報漏えいが不安」を挙げる人が多かった。
体の不自由な人にはむしろ手間が増え「診療を受けるためのハードルが上がるのでは」と懸念する声が出ている。
こうした現実を政府はしっかりと受け止めねばならない。
デジタル化を進めるならば、医療機関を利用する機会が多い高齢者や障害者にとっても不安のない仕組みにすることが求められる。
石破茂首相は臨時国会の所信表明演説で保険証の切り替えについて触れ「国民の不安には迅速に応え、丁寧に対応する」と述べた。
個人情報保護の備えを万全にすることが必須だ。拙速なデジタル化によって国民が不便になることがないようにもしてもらいたい。