民主主義がある程度定着した国で、あのような光景を見るとは。武装した兵士が国会を制圧しようとしていた。尹錫悦(ユンソンニョル)大統領が一時「非常戒厳」を宣言した韓国である

▼戒厳の布告令を読んだ。「自由民主主義体制を否定したり、転覆を企てたりする一切の行為」を禁じるとしながら「国会や地方議会、政党の活動と政治的結社、集会、デモなど一切の政治活動を禁じる」「全ての言論と出版は戒厳司令部の統制を受ける」とある

▼矛盾した内容だ。政治活動や言論の自由がない民主主義などあり得ない。非常時の特別措置だとしても、民主主義を否定する行為といえる。そもそも今は非常時なのか。大統領は己の政権維持のため「自由」や「民主主義」を持ち出したに過ぎない

▼2017年の韓国映画「タクシー運転手」は、戒厳令下にあった1980年に起きた光州事件を描いた。民主化要求は共産主義や政権転覆の企てと言い換えられ、軍は学生や市民に容赦なく銃弾を撃ち込む。治安維持の名の下、戒厳令は市民の弾圧に使われた

▼今回は国会で戒厳の解除を求める決議案が可決され、最悪の事態は免れた。それにしても、軍が先んじて国会などを制圧していたらどうなっていたか。そう考えると少しちぐはぐな動きにも見えたが、本稿を書いている時点では詳細はよく分からない

▼日韓関係や東アジア情勢への影響は避けられまい。一方、民主主義や権力の乱用について考えさせられた。お隣の「民主主義国」で起きた出来事である。

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