中国三千年の文化文明が生んだ輝かしい成果であり、日本千数百年の漢字漢語文化史上の見事な結実である-。漢和辞典などの編さんに携わった田部井文雄さんは四字熟語について、こう評した

▼いにしえの人々が生んだ珠玉の表現とはいえ、言葉は生き物、はやり廃りがある。時の流れの中で「死語」となったものも少なくない。言葉の持つ宿命といえる

▼褒め言葉として使われてきた「容姿端麗」も昨今は違和感を抱く人がいるだろう。宝塚歌劇団の俳優を養成する宝塚音楽学校は、来春入学の募集要項からこの文言を削除した。前年までは盛り込まれていた

▼学校側は「時代や環境の変化を踏まえた」と説明する。宝塚では俳優の長時間活動や上級生らによるパワハラが大きな問題になった。音楽学校の入学試験の倍率も低下傾向が続く。文言の削除は、組織風土の改革の表れなのだろうか

▼才色兼備、花顔柳腰(かがんりゅうよう)、明眸皓歯(めいぼうこうし)…。田部井さんが編んだ四字熟語辞典(大修館書店)を繰ると、女性の美しさを表す言葉はほかにもある。顔やスタイルを形容するものが目立つ。そこには、男性の視点が見え隠れする

▼ジェンダー平等の意識が広がり、ルッキズム(外見至上主義)への批判も高まって、こうした言葉も死語になるのか。至る所に染みついていた男性優位の意識も、牛の歩みながら変わりつつある。多様性がいっそう尊重される世の中になることを願う。田部井さんの辞書には「多種多様」や「十人十色」という言葉も載っている。

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