最大1万人収容できる会場はほぼ満員だった。舞台照明の職人技に魅了されつつ、シンガー・ソングライター「あいみょん」の歌を聴いた。2時間半の非日常。全国アリーナツアーの新潟公演だった
▼オジさんにも人気があることは知っていた。何より自分がオジさんだし。座席から見渡しただけでも白髪の後頭部がちらほら。ライブ中盤での恒例なのか、聴衆が年代別に手を挙げた。20代が一番多かったようだが、50代や60代以上もかなりいた
▼趣味や関心事がこれだけ多様に細分化している社会で、この29歳の歌姫に心を寄せる層の厚みは何なのか。気取らずに歌う姿勢が小気味いい。ポップなのにどこか懐かしく、純粋でいて毒もある。そんな説明ではきっと足りない
▼大御所の吉田拓郎さんが「昔の自分に似ている」と発言したのは見た目のことだというオチが付くのだが、ラジオ番組で「こんな詞の世界観はほかにない」と絶賛していた。拓郎世代に響く理由はそのあたりか
▼選挙における交流サイト(SNS)や動画サイトの影響力が注目されている。11月の兵庫県知事選では、多くの有権者が参考にしたのは新聞よりもサイトへの投稿だったと言われる。公正な取材に基づく報道であっても、情報は届いてこそである
▼しかと届く言葉とは。従来の価値観や伝え方に固執することなく、感性を磨き続け、考え続けていくほかない。報道と音楽は全くの別物だけれど「あいみょん」の歌を通して何か見えてくるものがあるだろうか。