小学6年の長男が熱を出した。かかりつけの小児科医院を訪れると、診療時間内のはずなのにドアが閉まっていた。入り口に張られた紙には、3カ月ほど前に閉院したと書いてあった。診療していたのは男性の医師1人で、60代半ばから70代ぐらいだっただろうか。しばし途方に暮れた
▼医療機関の閉院は増加傾向にある。帝国データバンクがことし公表した調査結果によると、2023年度に全国で休廃業・解散した医療機関は前年度比37・1%増の709件だった
▼運営を断念する背景としては、開業医の高齢化や後継者不在の問題が挙げられた。開業医は65~77歳の年齢層が多く、こうした動きは今後もさらに拡大する可能性が高いという
▼加えてデジタル化への対応もネックになっている。国はマイナンバーカードに保険証機能を持たせた「マイナ保険証」や、紙の処方箋を電子化した「電子処方箋」の普及を推し進める。一方、新潟市の開業医に話を聞くと「初期投資に補助金は出るが、保守は自己負担」といった嘆きが聞こえてきた
▼経営が圧迫され「もう少し続けたいけれど、この際廃業しようと考える医師も出てきた」とも話していた。国の政策が地域医療の担い手の意欲をそいでいるなら残念だ
▼わが家のかかりつけ医の閉院理由は分からないが、心にぽっかり穴が開いたような感覚は収まりそうにない。開業医は住民の健康を支えるだけでなく、いざという時に駆け込める安心感も与えてくれる存在なのだとつくづく思う。