列車は、札幌市の「平和」という駅に入った。北海道に雪が舞った日だった。ここでホームに降りた。駅から続く陸橋を渡ると、目指す建物があった

▼「ノーモア・ヒバクシャ会館」がこぢんまりと立っている。展示された白黒写真が訴えかけてくる。息絶えた女性、放心の目、人であるのかすぐには見分けがつかない被写体。広島と長崎の実相は核兵器のむごさを伝え、戦争はもうごめんだと訴える

▼原爆資料を展示する施設が北海道にあることを知らなかった。被爆者が多く移り住んだのが北海道なのだという。なぜ多いのか。理由を突き詰めることはできていないが「逃げて逃げて逃げて来た」との証言がある。被爆したことを話せぬ人もいた

▼会館はそういう苦しみを抱えた人たちのよりどころでもあるのだ。国内外3万人余の善意によって建設された。このごろは会員の高齢化に伴い、平和を発信する活動をどう継続させるかに頭を悩ませてきた

▼そんなときに差し込んだ光がノーベル平和賞受賞の知らせだった。受賞した「被団協」と呼ばれる日本原水爆被害者団体協議会に北海道の組織も所属している。「えっ」という感嘆が北海道でも上がったそうだ

▼今回の受賞を機に会館に看板を掲げると教わった。記す文言は「核兵器も戦争もない世界を、ともに」。唯一の戦争被爆国である日本だけでなく、との願いを込めた「ともに」であり、続く世代とも手を携える「ともに」であろう。切なるメッセージを本県でも受け止めたい。

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