キリスト教団体「救世軍」の社会鍋が、今年も新潟市中央区の古町十字路で始まった。百年以上の伝統を受け継ぎ、街頭募金の先駆けともいわれる年の瀬の風物詩だ

▼〈老いたるラツパ天対(む)き吹けり社会鍋〉山田みづえ。社会鍋は冬の季語でもある。三脚につるされた鍋に、買い物客がポケットから小銭をつまんで入れていく。ただ、今年の古町での活動は少し様子が違った

▼小さなラッパのコルネットが一つ、路面に置かれ、名物の軍帽がかぶせてあった。なぜだろう。牧師で元新潟小隊長の中川邦男さんが11月に急逝したのだという。大阪や静岡で約30年、さらにこの30年は古町でラッパを吹いてきた

▼「今年も頑張ろうって言っていたばかりなのに」。中川さんと同じ82歳の豊島正さんは、ずっと一緒に演奏し、善意を募ってきた。奏でるメロディーは「きよしこの夜」。少し音色がかすれ、さみしそうだった。でも、そこにはまたベテランの趣があり、新潟の寒風に絡んで優しく響いていた

▼能登の地震で始まった今年、世界では戦乱が続いた。わが国は物価高騰で庶民の生活は一向に楽にならない。昨年の生活保護申請件数は過去10年で最多だった。倒産も中小零細企業で急増している

▼「社会鍋は不景気な時ほどよく入る」。中川さんはかつて本紙の取材にこう話していた。雪国の人情は深く厚い。その思いやりが若者に引き継がれていくか、気にかけていた。古町では28日まで、元小隊長の遺志を継ぐメンバーらの賛美歌が続く。

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