「行動する作家」と呼ばれた小田実さんを一躍有名にしたのは、体験記「何でも見てやろう」だった。1958年、留学生として渡航するに際して小田さんは一つの誓いを立てる
▼上品で立派なものだけでなく、下品で汚いところも見てくる。それを「美術館から共同便所まで」と記した。まさしく、タイトルに採った「何でも見てやろう」の精神を携えて海を渡った
▼かつてのベストセラーを手に取ったのは、気になる調査結果の記事を読んだからだ。中国人の対日感情が急速に悪化している。日中の専門家による共同世論調査で相手国の印象が「良くない」と答えた人は、中国では前年比24・8ポイント増の87・7%となった
▼関係発展を妨げるものとして、中国人の回答で最も多かったのは福島第1原発処理水の海洋放出問題だった。対日感情悪化の背景について日本側の専門家は、実際の日本を知らない人が交流サイト(SNS)などで情報を得て反感を募らせている可能性があると指摘した
▼日本に好印象を持つのは、日本に渡航歴のある人は50%以上だったのに対し、ない人は3%だった。差は歴然だ。中国ではSNSも当局の監視下にあるとはいえ、日本人が近海産の魚を食べている姿を実際に目にすれば、余計な誤解も解けるのだろう
▼ならばインバウンド(訪日客)の増加には、経済分野以外にもメリットがあるといえる。こちらが見られて困ることはさほど多くない。「何でも見せてやろう」というぐらいの精神があってもいい。