アフリカのルワンダで1994年に起きた大虐殺では、100日ほどの間に約80万人が殺害された。その後、国連や各国政府、非政府組織(NGO)が難民支援に当たったが、3万人近くが死亡した

▼虐殺を免れた人の命を奪ったのは赤痢やコレラといった感染症だった。これをきっかけに、国際赤十字などがまとめたのが「人道憲章と人道支援における最低基準」だ

▼通称「スフィア基準」として知られる。給水・衛生、食料、避難所、保健医療の4分野にわたり、最低限の基準やその目的、効果を記載した。紛争地帯の難民救済が目的だったが、災害避難者にも適用されるようになった

▼能登半島地震をはじめ、わが国では災害が発生すると多くの被災者が避難所で長期にわたり雑魚寝を強いられる。そんな状況を改善する狙いだろう。内閣府は避難所運営に関する自治体向け指針を改定した。スフィア基準を反映させるという

▼例えば災害発生当初は50人に1個のトイレを用意できるよう備蓄し、一定期間経過後は20人に1個とする。生活空間は間仕切りを用意し、1人当たり最低3・5平方メートルのスペースを基準にする

▼ただ、スフィア基準が求めているのは非常時でも人としての尊厳が守られることであり、こうした数値はあくまでも技術的な指標という。トイレで言えば数ありきではなく、全ての人が安全で快適に使える環境づくりが大切なのだろう。誰もが被災者になるかもしれない。避難所では我慢が当然という意識を変えたい。

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