今年のNHK大河ドラマ「光る君へ」が終了した。平均視聴率10・7%は過去2番目の低さだったが、配信サービスによる視聴は好調だった

▼全48回を視聴した身としては、平安時代の恋愛事情や権力闘争は予想以上に面白かった。「源氏物語」の作者で、吉高由里子さんが演じた主人公の紫式部のほか、「枕草子」の清少納言や「蜻蛉日記」の藤原道綱母、「和泉式部日記」の和泉式部、さらには「更級日記」の菅原孝標女も登場して興味深かった

▼古文というと「あはれ」や「をかし」、係り結び、ラ行変格活用といった難しい言葉に悩まされた記憶がよみがえる。ドラマはいにしえの名文家たちを生き生きと描いた。そうした人物像を目にしていれば、もう少し勉強に熱が入った…かもしれない

▼歌舞伎演目を現代劇として上演する「木ノ下歌舞伎」を主宰する木ノ下裕一さんは古典を「冷凍食品」に例える。そのままでは硬くて食べられない。「もっと知りたい、学びたい」という情熱を持って読むと氷が溶けて、おいしく食べられるというわけだ

▼「めぐり逢ひて 見しやそれとも わかぬ間に 雲隠れにし 夜半の月かな」。百人一首にある紫式部の歌を、木ノ下さんは「久しぶりのあなたと会えてとても嬉(うれ)しかったのに、時間が幻のように過ぎてしまった。もっと一緒にいたかったなあ」と意訳する。現代に生きる私たちも共感できる

▼大河ドラマをきっかけに古典に親しむ人が増えたなら、視聴率では計れない成果ではないか。

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