インフルエンザの流行が全国で警報レベルに達した。注意報の本県も感染が拡大している。上越地域が大変のようだ。新型ウイルスの感染も11月から増えている。気の抜けない年末年始になる

▼風邪の類いに限らず、のどが急にチクチクし、せきが止まらなくなることがある。せきエチケットはわきまえているつもりだが、満員の通勤バスでゴホッとやると、周囲の視線が気になって切ない

▼作家の松下竜一さんは肺炎や結核を患い、せきの発作に生涯苦しんだ。短編「咳(せき)取り老人」は「大人の童話」のような薫りがする。松下さんが床の中で七転八倒の激しいせきをしていると金物の行商が戸をたたいた

▼歩くのもやっとの老人で、自身もぜん息のようだ。「わしがそん咳もろうてあげましょう」。そう言うと戸口で急にせき込み始めた。発作で倒れそうになって、涙がポロリと流れる。荒い息をしながら「これで今夜はぐっすり眠れますよ」

▼松下さんはお礼に焼酎代として100円を差し出す。老人はその後も訪ねて来て、一層激しい「咳取り」をしてくれるが、松下さんの症状はさほど変わらない。ただ胸を病む者同士、友情のような温かさが胸に染みた

▼今冬の風邪は大人の感染が目立ち、せきが長引く傾向もあるようだ。こんなことわざがある。「風邪の神は膳の下に隠れている」。風邪を防ぐにはしっかり食べて滋養を蓄えることが大切という意味だ。年越しは大型連休になる。体を休めて栄養を取り、風邪の神を追い払いたい。

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