知床の大自然を楽しむはずの船の観光ツアーが、一転して多くの犠牲者を出す大惨事になった。
残る不明者の捜索を急ぐとともに、原因究明に総力を挙げたい。
北海道斜里町の知床半島西側のオホーツク海を航行していた観光船が23日、遭難し、乗っていた子ども2人を含む客24人と乗員2人が不明となった。
一部の乗客は救助されたが、死亡が確認されている。あまりの痛ましさに言葉を失う。
事故発生から既に長い時間が経過した。不明者の安否が心配だ。
海上保安庁など関係機関は捜索の範囲を広げるなどし、一刻も早い救助につなげてほしい。
観光船は、世界遺産の知床半島を約3時間で巡る予定だった。
出港前は高さ30センチほどだった現場周辺の波は、約3メートルにまで達した。悪天候を見越して地元漁業者は操業を見合わせていた。
船長に複数の知人が「今日はやめておいた方がいい」などと助言し、船長は「分かった」と答えていたという。
運航会社は気象状況や危険性をどう認識し、乗員と共有していたのか。安全よりも運航を優先し、無理をしたのではなかったか。多くの疑問が残る。
付近の海域には複雑に入り組む浅瀬や岩礁が多い。観光船は操船が難しい中で、海に注ぐ滝などを見せようと沿岸近くを航行することがあるという。
専門家は、岩礁や浮遊物などにぶつかり、船体に穴が開いて浸水した可能性があると指摘する。
観光船はこの日が今季の運航初日で、大型連休頃に開始する他の会社に先駆けた。集客への焦りはなかったのか。
船は昨年2回事故を起こしている。5月には浮遊物と衝突して乗客3人が軽傷を負い、6月には出港後に浅瀬で座礁した。
座礁事故では今年1月、海保が業務上過失往来危険容疑で船長を書類送検したばかりだ。
今回の事故を受け、国土交通省は運航会社に対する特別監査を始めた。過去の事故と関係があるのかも含め徹底解明してほしい。
船からの救助要請が第1管区海上保安本部に入った後、捜索を開始するまで約3時間かかった。現場が海保の拠点から遠く、悪天候も影響したためという。
間もなく大型連休が始まる。新型ウイルスの感染禍で大きな打撃を受けてきた観光地は再びにぎわいを取り戻そうとしている。
過去には遊覧船が座礁したり、他船と衝突したりする事故が全国各地で相次いでいる。
国交省北陸信越運輸局は、旅客船を運航する県内8事業者を対象に安全点検を行うことを決めた。
安全軽視は重大な事故を招きかねない。事業者は、船体の点検や安全管理を改めて見直し、事故防止を徹底してもらいたい。
