〈寄鍋や旬の野菜を盛り上げて〉。古典の名句から現代の愛好家の秀作までを網羅した「ザ・俳句 十万人歳時記」という本を眺めていたら、こんな句に出合った
▼火にかける前の土鍋だろうか。白菜やネギをはじめとした具材が山盛りになった姿が目に浮かぶ。ふたが閉まらないほどの野菜も火を通すうちに、かさがどんどん小さくなる。正月の脂が強い料理で疲れた胃にはありがたい
▼冬の食卓では、野菜の煮物も主役の一つだろう。筑前煮は里芋やレンコン、ニンジンといった具材のうまみがしっかり味わえる。ブリ大根は魚のエキスが染みて、あめ色に煮えた大根こそが主役と言いたくなる
▼厚生労働省の調査によると、2023年の成人の野菜摂取量は比較可能な01年以降で最少だったという。1日当たり256グラムで、男女ともに減少傾向にあるようだ。政府の健康づくり計画が定める目標値は350グラムである
▼何かにつけて値上がりする昨今、野菜の高騰もたびたび話題になる。たくさん食べたくても懐事情が許さないという背景もあるかもしれない。ただ健康の維持には不可欠な存在だ。肉や魚ほどスポットライトを浴びないかもしれないが、野菜の彩りが少ない食卓は寂しい
▼単身赴任をしていた頃、一人用の小さな土鍋で各種の鍋物を作るのがささやかな楽しみだった。スーパーの店頭で地物の野菜を物色し、鍋に詰め込んだことを思い出す。冒頭で紹介した本には、こんな句も載っていた。〈白菜の鍋に収まりきれぬほど〉