米国では大規模な山火事が発生し被害が広がっている。国内でも多くの火災が起きている。火の怖さをまざまざと見せつけられる。その半面、火のありがたみを実感する季節でもある
▼以前、雪の上でたき火をしたことを思い出す。火に向き合うと背中側は冷たいのに、顔はほてって汗ばむほどだった。ぴりりとした寒さの中で燃えさかる炎は力強く、頼もしかった。しかし、ひとたび扱いを誤れば大きな災厄を招く。それだけに何か畏れのような感情もわいてきた
▼火は人の心も熱くする。作家の椎名誠さんは仲間とよく本県の粟島を訪れてキャンプをした。夜ごと酒を酌み交わす。ばかな話に花が咲き、即興でデタラメ民謡を歌い出す。その輪の中には、いつもたき火があった
▼生きる力も与えてくれる。30年前に阪神大震災が起きた際は、倒壊した家屋から被災者が廃材を持ち寄って燃料にし、煮炊きに使ったことがあったという。地震後の火災で多数の命が失われた一方で、たき火によって命をつないだ人もいた
▼少し前の本紙に、災害時に役立つキャンプ技術を指導する寒川一(さんがわはじめ)さんが阿賀野市の小学校でたき火をテーマに授業をした様子が載っていた。野外で火を起こすと暖が取れるだけでなく、川の水を煮沸すれば飲み水になる
▼授業では山尾(やまお)三省(さんせい)の詩「火を焚(た)きなさい」が紹介された。その一節を引く。〈静かな気持ちで 火を焚きなさい 人間は火を焚く動物だった だから 火を焚くことができれば それでもう人間なんだ〉