雪国の冬は昔、子どもたちが炉端でお年寄りを囲んだ。「あったてんがな」で始まる昔語りを聞くためだ。民話研究の水沢謙一さんが集めた越後の口承は、新年にふさわしい年神様の話も多い
▼かつて年齢は「数え年」で、年が明けると全員1歳年を取る。誕生日に1歳加える満年齢の今とは違った。栃尾郷(現長岡市)に伝わる「年玉配り」では、年取りの日である大みそかに年神様が家々を訪ね「年玉」という丸もちを配る
▼これをもらうと加齢される。「おいら年なんかいらん」。ある家のばさはこう言って火たき用のまきの中に隠れた。結局、年神様に見つかり「余った年玉も、お前にくっる」。それでばさは、自分の分と合わせて、新年に2歳年取ったとさ-
▼高齢になるほど若くいたい。しかし、加齢だけは平等だ。ことしは高齢化社会の大きな節目という。1947~49年の第1次ベビーブームに生まれた人は800万人以上。その「団塊の世代」の全員が75歳以上になる
▼人口のほぼ5人に1人が後期高齢者になるから、社会の高齢化は著しい。戦後のニッポンを引っ張ってきた世代である。これからは、らっくりと晩年を過ごしてもらいたい。それなのに昨年は、介護事業者の倒産が過去最多だった
▼高齢者を世話する人手不足が深刻だ。労働条件を改善し、誇りを持てるようにしたい。昔からの助け合いも大切だ。お年寄りを支える地域社会を元気にする節目にもしたい。みんなが笑顔で年神様を迎える世であってほしい。