建設現場や工場などに掲げられる漢字4文字と言えば「安全第一」。本来はこれに「品質第二」「生産第三」が続いたという。河出書房新社「シン・雑学王」で知った
▼米国由来の標語であり、元々は生産が第一で、品質、安全の順だった。優先順位を変えたのが製鉄会社のUSスチールだという。設立間もない1906年に2代目社長のエルバート・ヘンリー・ゲーリーが打ち出した
▼生産量が落ちると反対もあったが、意識を転換し労災が激減。工員の士気高揚で生産性も品質も向上し、増益につながった。企業活動の王道を貫き、20世紀に米国を世界最大の工業国に押し上げる原動力になった
▼その往時の栄華と郷愁をまとう名門が今、内向きな保護主義を強める「米国第一」に傾く力に翻弄(ほんろう)されている。日本製鉄による買収計画にバイデン米大統領が禁止命令を出した。国家安全保障のリスクを根拠とするが、同盟国の企業相手に理解に苦しむ。日本資本には断固渡すまじと、米国内での買収案も再び浮上してきた
▼USスチールや製鉄所の地元自治体は日鉄の買収に期待している。経済合理性の乏しい禁止命令には米政権内でも異論があるが、買収阻止は組合員120万人を誇る業界組合票を狙う「選挙第一」によるものだとする見方も残る
▼大統領就任が迫るトランプ氏も反対を表明しているが、買収によるメリットの大きさに目が向けば容認に転じる可能性もありやなしや。「損得第一」は新大統領の信条にかなっているのでは。