TBSは死んだに等しいと思います-。ジャーナリストの筑紫哲也さんが、キャスターを務めていた同局のニュース番組でこう発言したのは1996年3月のことだった
▼発言のその日、報道機関としての信頼を自ら放棄する事態が明らかになった。オウム真理教の問題を追及していた坂本堤弁護士のインタビュー映像を無断で教団側に見せていたのだ
▼教団は映像を見た後、坂本弁護士一家を殺害し、遺体を本県などに埋めた。敵対する相手に許可なく放送前の素材を見せる行為は報道の倫理に著しく反する。筑紫さんは、信頼をなくした報道機関は死んだも同然だと言いたかったのだろう
▼あの発言を思い出したのは、フジテレビが社長の記者会見の動画撮影を認めなかったと知ったからだ。自社の番組でも静止画を放送しただけだった。テレビ局が映像の取材を許さないのは、自らの存在の否定ではないのか。テレビ報道の自殺行為と言っていい
▼フジテレビはタレントの中居正広さんと女性とのトラブルに関し、週刊誌で社員の関与が報じられていた。本来なら、テレビカメラの前できちんと説明するのが筋だ。これでは、疑惑の当事者らに映像取材に応じるよう迫ることなどできなくなる。報道の現場で真摯(しんし)に取り組もうとしているスタッフは愕然(がくぜん)としているのではないか
▼大手企業の間では、フジテレビでのCMを差し止める動きが広がった。筑紫さんの言葉は、報道に携わる者全てに対する戒めでもあった。改めてかみしめたい。