「そこの空気に触れるだけで特別なもの。行ったことがない人には絶対分からない。行ったことがあっても野球への情熱がない人にとっては何もない場所かもしれない」。元メジャーリーガーのイチローさんは以前、米国野球殿堂博物館のことをそんなふうに語っていた(丹羽政善「イチローフィールド」)

▼何度も訪れたというその聖地に、アジア人として初めて名を刻んだ。日本に続き米国でも野球殿堂入りが決まった。メジャーで前人未到のシーズン262安打を記録するなど、走攻守での偉業からすれば当然だろうか

▼永遠の野球小僧である。今月発売のスポーツ誌で松井秀喜さんと対談し、データ偏重の最近の野球に「イライラが増えた」と嘆いた。きわどいボール球をファウルにする技術などを例に「目には見えないところを大切にする野球」へのこだわりを語っていた

▼引退後も頭の中は野球でいっぱいらしい。バットの代わりに割り箸を持って打席に立つ夢を何度も見ると明かした。日々のトレーニングを続け、高校球児への指導で各地を回る

▼これまで、国民栄誉賞の授与は3度も丁重に辞退している。一方で、殿堂入りは手放しでその栄に浴したように見える。究極のドリームチームに加わった感覚なのか。何に価値を置いているかが伝わる

▼2019年の引退会見で、選手として貫いたものを問われ「野球を愛したこと」と答えていた。50歳を過ぎても貫き続けている。類いまれな才能とは、まさにそのことなのだろう。

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