トランプ米大統領は就任直後から多くの大統領令に署名した。前政権が積み上げてきた人権政策や環境対策を、これみよがしに踏みにじる印象だ

▼「DEI」政策にも終止符を打つとした。多様性・公平性・包括性を意味する英単語の頭文字を並べたのが「DEI」だ。前政権はこれらの価値を社会に根付かせようとしてきた

▼このうち「E」は公平性を表す「エクイティ」の頭文字である。平等を指す「イクオリティ」の「E」ではない。共に頭文字は「E」だが、意味合いは少しばかり異なる

▼よく使われる例えがある。背の高い人と低い人が頭上の枝のリンゴを取ろうとするが、両者とも手が届かない。この時、同じ高さの踏み台を与えるのが「平等」。背の低い人は、それでも届かないかもしれない。一方で、背丈に応じてリンゴに届く高さの踏み台を用意するのが「公平」だ

▼うわべだけの「同じ」ではなく、全員がリンゴを取る機会を与えられる「機会の均等」を目指すのが公平性という。人種や性別、障害の有無や貧富の差などに応じた支援があってこそ、多くの人が力を発揮できる

▼だがトランプ支持者の中には、特定層ばかりに手厚いのは逆差別だと反発する声がある。米企業は新政権の顔色をうかがうように社内の施策を見直し始めた。ただ、極端なケースはともかく、DEI自体を否定しては社会の活力は生まれまい。日本では経済界が積極推進を誓って日が浅い。「E」の意味を置き換える動きなどないと信じたいが。

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