葉を落とした木の枝に小鳥がたくさん止まっていた。近所の公園で見かけた。スズメの群れかと思ったが、わずかに大きいようだ。そっと近寄ってよく見ると、胸の辺りの淡いオレンジ色が美しい
▼帰ってから図鑑を開いた。「アトリ」というらしい。大群を作ることもあるそうだ。バードウオッチングの愛好家には笑われそうだが、こんな鳥が身近にいることを初めて知った。越冬のため、シベリアからやって来る冬鳥という
▼冬の渡り鳥は多い。ハクチョウなど大型の種類だけではなく、アトリやツグミといった小鳥も海を越えて飛来する。あの小さな体のどこに、そんなパワーやスタミナが宿っているのだろう。改めて驚き、舌を巻く
▼痛切な言葉を思い出す。拉致の可能性を否定できない特定失踪者で、長岡市の中村三奈子さんの母クニさんが話していた。「鳥ならば誰にも邪魔されずに行けるのに」。韓国の北朝鮮国境近くを訪れた際に渡り鳥がかの国へ飛んでいくのを見て、娘に思わず呼びかけたという
▼政府が認定した拉致被害者の家族も同じ思いのはずだ。鳥たちが自由に行き来できる海を、人間は思うように渡れない。今更ながら思い知る。最愛の肉親と会うことができないとは、なんという理不尽だろう
▼クニさんはトランプ米大統領の就任に際し、本紙の取材に「日本政府は米国に働きかけつつ、自身でも最優先課題として向き合ってほしい」と語った。鳥には頼れない。問題を解決できるのは、私たち人間しかいない。