年明け以降、陸上長距離界では多くの記録が打ち立てられた。箱根駅伝では青山学院大が大会新で総合優勝し、マラソンでは学生新記録が生まれた。ハーフマラソンでは日本人として初めて、1時間の壁を破る選手が現れた
▼いずれもマラソン愛好家には夢のような記録だ。一方で、自分の実力に合わせて「4時間の壁」とか「5時間の壁」などを設定し、自己新に挑む人も多いだろう。各地の市民マラソン大会では、そんなランナーが力を振り絞る
▼壁を破るためには鍛錬が不可欠だ。でも、過度な練習は脚を痛めてしまうこともある。加齢とともにその頻度が増している筆者などは、ほどよい練習のやり方を手探りする日々である
▼国会では所得税が生じる「年収103万円の壁」を破ろうと、与野党が議論する。昨年末の与党税制改正大綱では123万円への引き上げが決まったが、国民民主党は178万円への引き上げを求めてきた。何事につけ、壁が高いほど突破の難しさは増すのだろう
▼作家の石川淳は安部公房の作品集「壁」に序文を寄せ、強固な壁に阻まれた際の対処法を論じた。ドストエフスキーが示した案として紹介したのは「曲がればいい」ということ。曲がることを知れば、人間は柔軟になり、領域が広がって知恵が進むと主張した
▼「曲がる」とは、視点を変えたり、新たなアイデアを出したりすることを意味するのか。正攻法でぶつかるもよし、くるりと曲がるもよし。立ちはだかる壁を、どうにか乗り越えたい。