「こんな人でも生きていると思うと自分も大丈夫だと思いました」。悩める男子高校生から、こんな言葉をもらった人がいる。37歳の時に「こわれ者の祭典」を始め、ことしで60歳になった新潟市の月乃光司さんだ

▼祭典の名誉会長である、作家の雨宮処凛さんの本紙連載「『生きづらさ』を生きる」では、挿絵を担当している。そのタッチはほのぼのとして、見る側の心を和ませる

▼ご存じの方も多いだろう。この祭典はアルコール依存症や引きこもり、自殺願望、対人恐怖症などを経験した月乃さんが、似た苦しさを知る仲間たちと織りなす「病気お笑いイベント」だ。観客もいろんな病を抱え、恥ずかしい失敗や悩みを語る。そして共感し涙を流し、笑い飛ばす

▼雨宮さんも中学時代にいじめられ、自殺を考えた。受験も失敗し、進学をあきらめた。いま警鐘を鳴らす。自信を失い、苦しくて死にたい-。そんな若者があふれているのに、社会はどんどん失敗に非寛容になっていないか

▼昨年の小中高生の自殺者は全国で約530人と、過去最多だった。本県は若者は減ったが、全世代の数は増えた。若者が生きづらい雰囲気では少子化が進むのも当然か。雨宮さんは自著に書いた。「美談ではない、ただの大人の失敗談が聞けたら、どんなに楽になるだろう」

▼受験シーズンだ。失敗し、落ち込む人もいるだろう。「人生の経験値は、失敗することで上がっていくんですよね」と月乃さん。冒頭の高校生の一言が最大の賛辞に違いない。

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