国語教師の坂田みきさんは、ユニークな授業を試みてきた。和歌の作者の心情に迫るため、現代短歌に詠み直してもらう
▼新潟清心女子中学・高校で教えた際は、建礼門院右京大夫が恋人の都落ちに際して詠んだ「またためし たぐひもしらぬ うきことを みてもさてある 身ぞうとましき」を題材にした。坂田さんの現代語訳は「このような例も類も知らないつらい目を見ても、このように生き暮らしている身がうとましいことです」だ
▼生徒は次のように詠んだ。「もう二度と 貴方(あなた)に逢(あ)えぬ 命なら 捨ててしまって かまわないのに」「これほどに 苦しいことは またとなく 誰か私を 殺してほしい」「知らぬほど 辛(つら)い思いを かかえても 後にも先にも 動けぬ我(わ)が身」
▼坂田さんは、その感性のみずみずしさや、言葉選びのセンスの良さに感心させられたという。右京大夫の和歌集を現代語訳した著書「雪と消えにし人や恋ふらむ」で振り返っている
▼右京大夫と恋仲だった平資盛は、1185年の壇ノ浦の戦いで帰らぬ人となった。それから840年。右京大夫は自分の歌が後世に残ったとしても誰がしみじみ見るでしょうかとつづったが、今なお若い女性の共感を得ている。きっと喜んでいるに違いない
▼一方で海の向こうでは戦争で大切な人を失い、悲しく、つらく、苦しい日々を送る女性が絶えない。右京大夫は着物の袖を涙の露でぬらしたという趣旨の歌を多く残した。現状を知れば、どんな歌を詠むのだろう。