難病を抱えた患者が経済的負担を理由に治療を諦めるような事態を招いてはならない。政府は当事者の声をきちんと聞き、誰もが安心できる制度にする必要がある。

 医療費が高くなった場合に支払いを抑える「高額療養費制度」で、政府は利用者負担を引き上げる方針を決め、2025年度当初予算案に反映させた。だが反発を受け、一部修正する意向を示した。

 高額療養費制度では現在、患者負担の上限額は年収などで異なり、例えば年収700万円なら上限は月額8万円程度になる。政府はこの上限額を25年8月から段階的に引き上げ、27年8月には最大約13万9千円とするとした。

 政府は「多数回該当」の上限額も引き上げるとしていた。

 治療が長期間必要な人を対象とし、直近12カ月以内に3回以上、上限額に達すると4回目から支払い額が減る仕組みだ。

 しかし、多数回該当については、長期の治療を受ける患者の負担を考慮し、現行額のまま据え置く案に修正した。

 背景には、がん患者団体などが強く反発したことがある。がんや難病の治療では高額な薬の服用や、治療が長期間にわたることが多いためだ。

 政府の修正案について患者団体は「感謝する」と一定の評価を示しつつ、制度全体の上限額引き上げを凍結するよう改めて求めた。

 引き上げ幅が非常に大きく、患者や家族に過重な負担となる可能性がある。患者団体が「治療を諦めざるを得なくなる」と訴えている状況は理解できる。

 石破茂首相は14日の衆院本会議で「当事者の声も真摯(しんし)に受け止め、可能な限り幅広い合意形成が図られるよう、提案の修正を含めて対応していく」と述べた。引き続き検討を求めたい。

 当初案では上限額の引き上げを決める過程にも問題があったと言わざるを得ない。昨年11月の「全世代型社会保障構築会議」で議論を開始し、1カ月余りで25年度予算案に盛り込んだが、当事者の意見を聴取していなかった。

 命に関わる問題だという認識が欠けていたのではないか。あまりに拙速だった。

 政府が社会保障制度改革を急ぐのは、児童手当拡充など「次元の異なる少子化対策」の財源捻出のためだ。28年度までに社会保障費の削減などで計3兆6千億円の確保が迫られている。

 高齢化で膨張する医療費を放置すれば、主に現役世代が担う保険料が増え続けるという危機感もあるのだろう。

 とはいえ、医療のセーフティーネットは現役世代も含め、誰もが必要とするものである。それだけに丁寧な議論が欠かせない。

 国会では与野党の協議が続いている。財源確保策も含め、より良い修正に向けて熟議してほしい。