その資料館の看板は小さく、目立たない。昨秋に地元児童と館内を見学する機会があった。こぢんまりした施設ながら、教訓がぎゅっと詰まっていると感じた。糸魚川市の能生地域にある雪崩資料館である

▼1986年1月、旧能生町柵口(ませぐち)地区の権現岳(1104メートル)中腹から大規模な表層雪崩が発生した。約2キロ先の集落をのみ込み、13人が犠牲になった

▼資料館は惨事を後世に伝えようと95年に開設された。雪崩の発生は午後11時ごろ。大混乱だったのだろう。現場を記録した写真には、なぎ倒された木々や時計などが散乱した様子が捉えられている

▼事故を再現し、雪崩の通り道をランプの点滅で示す模型もある。山の斜面を一気に崩れ落ちる雪崩は時速200キロにも達することがあるそうだ。「雪崩の学習施設として貴重」と語る専門家もいる

▼しかし市によると、子どもたちが学習のために訪れるのは年に数回という。市中心部からは約30キロ。アクセスはいいとは言えない。雪崩発生から約40年、資料館開設から30年がたち、展示にも時の経過が感じられる。ただ、今も昔も雪国の人々はこうした災害と隣り合って生きている

▼能生では2022年2月にも男性1人が犠牲になった。栃木県那須町では17年、登山講習中の高校山岳部員ら8人が死亡した事故があった。先人の悲しい記憶を胸に刻むために、尊い命が奪われないために、多くの人に資料館へ足を運んでもらいたい。ドカ雪が降った今年も雪崩には最大限の注意が必要だ。

朗読日報抄とは?