電気自動車(EV)で先行する海外勢に対抗するには欠かせない統合だったはずだ。大変革期の中で、生き残る戦略をどう描くのか。両社は、競争力強化へ次の一手を早急に模索してほしい。
ホンダと日産自動車は経営統合に向けた合意の撤回を、それぞれの取締役会で決定したと発表した。昨年12月に本格的な統合協議に入ると発表してから、わずか2カ月足らずで頓挫した。
日産の合理化策を踏み込み不足と判断したホンダが、日産の完全子会社化を打診し、これに日産が反発したことが原因だ。
当初の計画は、2026年8月に持ち株会社を発足させ、両社が傘下に入るとしていた。対等の統合をアピールしていた日産側は、ホンダの提案に反感を強めた。
ホンダの三部敏宏社長は、変化が速い自動車業界にはスピード感が必要とし、当初の計画は「厳しい判断に対峙(たいじ)した時に、判断のスピードが鈍る」と説明した。子会社化の提案は、「統合を成功に導くベストな手段だ」とした。
ホンダとしては、日産の経営に強く関与できないまま日産がさらなる業績悪化に陥れば、共倒れのリスクもあったのだろう。
一方、日産の内田誠社長は、子会社化で「自主性がどこまで守られるのか、ポテンシャルを引き出すことができるのか確信を持つに至らなかった」としている。
社風の違いを超えて、それぞれの長所を伸ばし弱点を補う体制を作り上げていかねばならなかったはずだ。両社が信頼関係を築けなかったのは、残念だ。
自動車の競争領域がEVやソフトウエアに移行し、米テスラや中国の比亜迪(BYD)など新興勢力が台頭している。統合撤回で、競争力確保に暗雲が漂っている。
今後の焦点は日産の先行きだ。日産は25年3月期の連結純損益が800億円の赤字に転落する見通しも発表した。国内の大手自動車メーカー7社で、日産だけが赤字に陥るとの見通しだ。
販売台数の6割を北米と中国に依存するが、いずれも伸び悩み、単独での生き残りは困難とされている。新たなパートナー探しを急ぐ必要がある。
経営参画を狙う台湾の電子機器受託生産大手の鴻海(ホンハイ)精密工業の動きが注目される。米IT大手アップルも候補と報じられている。ただ、技術の海外流出に留意せねばならず、日本政府などの理解を得られるのか不透明だ。
ホンダは単独での成長シナリオを持っているとするが、安泰ではないだろう。自動車事業は二輪車事業より収益性が悪く、昨年の販売台数はBYDを下回った。
自動車産業は、サプライチェーン(供給網)の裾野が広く、ホンダと日産で4万社を超える。中小企業への影響が出ないよう、安定した基盤を築かねばならない。