室町幕府第13代将軍の足利義輝は武勇の誉れ高く、刀剣のコレクターでもあった。その最期は、押し寄せる敵を数多く斬り伏せた末に力尽きたという。数々の名刀を手に戦ったとの説もある。まさしく「伝家の宝刀」を抜いた形だ
▼その家に代々伝わる大切な刀。これが転じて、いざという時にしか使わない奥の手や切り札を意味するようになった。首相が衆院解散を決断する際や、為替市場の急激な変動に対して通貨当局が介入に踏み切る時などに使われる
▼これも伝家の宝刀を抜いたのか。コメの価格高騰に対処するため、政府が備蓄米を放出することを決めた。高騰について農水省は、値上がりを見込んだ一部業者らによる買い占めが背景にあるとみている
▼流通量を増やし、売り渋りにブレーキをかけようという狙いだ。流通の円滑化を目的にした放出は初となる。為替市場の投機的な動きに対して、当局が通貨を売買する為替介入になぞらえる向きもある
▼「令和の米騒動」には消費者はもとより、小売業者や飲食業者からも悲鳴が上がっていた。このままでは消費者のコメ離れが進みかねない状況だった。備蓄米の放出で価格が下がるなら、消費サイドとしてはありがたい
▼一方で、生産現場はコスト上昇などで採算の悪化に歯止めがかからない。価格維持の大義名分で、政府は必要以上に生産を抑え込んできたとの指摘もある。適正な価格や生産量はどの程度なのか。宝刀を抜いたのなら、これを機に根本的な議論が求められる。