米ハワイ出身の人気力士だった高見山が愛きょうたっぷりに「2倍、2倍」。ずいぶん前に放送された、寝具のCMである。2枚重ねの羊毛層のおかげで、快適さが2倍という触れ込みだった。独特のしゃがれ声で発するせりふは流行語にもなった

▼快適さが2倍になるならけっこうだが、何でもかんでも2倍になればいいというものではない。物事によっては不公正な事態が起きてしまう。昨年11月の兵庫県知事選で話題になった「2馬力」行為もそうだろう

▼他の候補の当選を目的に立候補し、自分を売り込むのではなく、専ら応援する候補をPRする。単純計算で選挙運動が2倍になる形だ。選挙カーやポスター、チラシの数は上限が定められているが、こちらも2倍ということになる

▼何人もの候補が同様の手法を繰り出せば、2倍どころではなくなる。多数を立候補させる供託金をまかなえる資金力がある陣営が組織的に展開すれば、選挙戦を特定候補の応援一色に染めることさえ可能になってしまう

▼公正な選挙をゆがめることになり、法の抜け道というよりは脱法行為と言っていい。国会でも2馬力行為や、交流サイト(SNS)での収益目的の選挙運動に対する規制についての議論が進んでいる

▼言うまでもなく、選挙は民主主義の象徴である。公正な選挙を確保するために、時代の変化をにらみながら、さらなる努力が求められるのだろう。「2倍、2倍」。それぐらい、あるいは、それ以上の努力が必要なのかもしれない。

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