「悪の帝国」。1983年、当時のレーガン米大統領が、冷戦中のソ連をこう表現した。辞書で「帝国」は「皇帝が統治する国家」とある。軍事力などで領土拡大を進める覇権思想を「帝国主義」ともいう

▼現在のトランプ大統領は、交流サイト(SNS)にフランスの皇帝ナポレオンの絵とともに、こんな言葉を投稿した。「国を救う者はいかなる法律も犯さない」。動機が国を救うためなら、法律違反も許されるという趣旨ならば、法の支配など、どこ吹く風だ。独善が目に余る。時代錯誤の帝国復活なのか

▼「悪の帝国」は大リーグにもある。ヤンキースの代名詞という。スター選手を札束攻勢で次々と獲得し、他球団からこう呼ばれた。近頃は、昨季のワールドシリーズでヤンキースを破ったドジャースが悪名を引き継いだとみる向きもある

▼大谷翔平選手が加入した際は、巨額契約金の97%を後払いにしたことで球団に資金の余裕ができた。そのおかげで選手補強は独り勝ちの様相だ。今季は若手有望株筆頭の佐々木朗希投手まで入団したとあっては、他球団の恨み節も分かる

▼東京での開幕戦では山本由伸投手と、カブスのエース格である今永昇太投手が投げ合う。「帝国」打倒に闘志を燃やす各チームを応援するのも、今季のだいご味だろう

▼プロスポーツや映画の中では強力な悪役がいてこそ見る側の楽しみが増す。けれど、政治の世界で帝国主義のような振る舞いがまかり通ればどうなるか。そんな展開を目にしたくはない。

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