敵は正面から現れるとは限らない。背後からの攻撃にも備えるため、陣の後方に盾を配備することもあっただろう。「後ろ盾」という言葉の本来の意味である。後ろから助けるので、陰で後押しをすることを意味するようになった
▼ロシアの侵攻を受けたウクライナにとって、米国は大きな後ろ盾だったはずだ。それがトランプ大統領の再登板を機に状況は一変した。早期停戦を大義名分に米国はロシアに急接近した。一方の当事者のウクライナ抜きで停戦交渉を本格化させようとしている
▼ウクライナに希少鉱物資源の供与を求めたトランプ氏は、要求に対するゼレンスキー大統領の姿勢にいたくご不満だという。支援を求めるなら見返りをよこせということか。「独裁者」とまで呼んで攻撃姿勢を強めている
▼ゼレンスキー氏は大統領の任期切れ後も職にとどまっている。その措置は戦時体制の戒厳令の規定に基づくのだが、トランプ氏はロシア側のプロパガンダに沿う形で批判を強める。ロシアとの協調を見せつけ、ウクライナを置き去りにすると脅すような態度だ
▼早期停戦が望ましいのは間違いない。多くの命が失われる状況は止めねばならない。一方で、ロシアの言い分ばかりに耳を傾けるなら、力による現状変更を認めてしまうことになる。そんな前例をつくれば世界のほかの地域でも、同様の事態が起きかねない
▼24日で侵攻から3年。後ろ盾が敵の援護に回ったかのような振る舞いを始めた。このままでは大きな禍根を残す。