欧州の安定は国際社会にとって重要だ。欧州連合(EU)のけん引役として力を発揮していくためにも、次期首相は政権基盤をしっかりと固めてもらいたい。

 ドイツ連邦議会(下院)選挙で、最大野党の保守、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が第1党になり、メルケル前首相が退任した2021年以来の政権復帰が確実になった。

 次期首相就任が見込まれる党首のメルツ氏は、4月中旬ごろまでに政権を発足させる意向だ。

 ただ単独過半数に届かず、ショルツ首相の与党で中道左派の社会民主党(SPD)との2党連立政権を模索している。

 CDU・CSUとSPDは過去にも連立を組んでいる。連立が実現すれば政権運営が安定し、欧州における存在感が再び増すのではないかとの期待がある。

 ロシアのウクライナ侵攻や第2次トランプ米政権発足で、EUは課題が山積している。

 喫緊の課題は、ウクライナを終戦に導くことだ。その先にある戦争終結後の平和維持活動は再侵攻を防ぐために不可欠で、欧州全体の安全保障に関わる。

 トランプ米大統領は、ロシアとの戦争終結後「(ウクライナの)安全を保証するつもりはほとんどない。欧州に担ってもらう」と述べ、欧州に丸投げする意向だ。

 米国の協力を得られる見通しがない中で、欧州全体の対応を協議するためにも、安定したドイツ新政権の発足が欠かせない。

 懸念するのは、ドイツ総選挙の結果、反移民を掲げ「極右」と称される右派「ドイツのための選択肢(AfD)」が、第2党に躍進したことだ。

 AfDは、寛容な移民政策に反発して自国第一を訴えた。東西統一から30年以上たっても格差が埋まらず、不満がくすぶる旧東ドイツ地域を席巻した。

 片や与党SPDが退潮した背景には、ショルツ政権の移民政策が実効性を欠いたことがある。

 AfDが、地域を覆う閉塞(へいそく)感に加え、「難民や移民が優先されている」と不満を感じる国民の受け皿になったのは確かだ。

 ただ、AfDの幹部はナチスを擁護するような発言もしている。AfDの支持拡大には「反ナチス」を国是としてきたドイツ社会の変容がうかがえ、憂慮される。

 メルツ氏は選挙前、AfDに流れる保守票を取り込むために移民政策の厳格化を主張した。ただその動向によっては他のEU加盟国との協調が損なわれかねない。

 要となるのはフランスとの関係だ。16年にわたり政権を維持したメルケル前首相は、歴代のフランス大統領と強固な関係を築いた。

 メルツ氏は政府要職の経験がなく、首相としての指導力は未知数だ。しかし自国に加え、欧州の安定のために踏ん張ってほしい。