感情的なやりとりで交渉が決裂し、停戦が遠のく恐れが生じたことは残念でならない。両首脳は冷静になり、関係を修復して交渉を継続してほしい。欧州各国や日本の尽力も求められる。
トランプ米大統領とウクライナのゼレンスキー大統領がホワイトハウスで会談し、報道陣の前で激しい口論を繰り広げた。
ロシアとの戦争終結に向けた首脳会談は決裂し、予定していたウクライナの鉱物資源の共同開発に関する合意は見送られた。
会談でゼレンスキー氏は、鉱物資源合意を突破口に米国の軍事支援と戦後の安全の保証について確約を得たいと考えていた。
しかしトランプ氏が安全保障について「確約していない」と述べると、ゼレンスキー氏は「安全の保証がない停戦は受け入れられない」と不満を表明した。
同席したバンス米副大統領が「無礼だ」と述べたのをきっかけに激しい応酬となり、トランプ氏は「あなたに交渉カードはない」「第3次世界大戦を賭けてギャンブルをしている」などと語った。
報道陣が見守る中での激しい口論は異例だ。ウクライナを格下とみなす大国主義的なトランプ氏の言動は許されない。
会談後、トランプ氏は記者団に「あれは平和実現を望む男の姿ではない」と批判した。ゼレンスキー氏は出演したニュース番組で関係改善は可能との見方を示し、「味方をしてほしい」と訴えた。
トランプ氏はウクライナの頭越しにロシアとの交渉に乗り出している。停戦実現への意欲は理解するが、問題はプーチン大統領への肩入れが強いことだ。
口論の原因の一つは、プーチン氏は信頼できると主張するトランプ氏に対し、ゼレンスキー氏が警鐘を鳴らしたことでもあった。
交渉決裂がロシアをさらに利する恐れがある。
決裂で米国が武器供与などの軍事支援を後退させる可能性が指摘されており、ロシア側からは両首脳のけんか別れを「これは有益だ」と歓迎する声が聞かれた。
しかし、侵攻した側のロシアに有利な形で停戦交渉がなされる事態はあってはならない。
今後一層重要になるのは欧州各国の役割だ。
会談決裂を受け欧州首脳は2日、英ロンドンで会合を開き、和平実現に向けた計画を策定し、米国に協力を求めることで合意した。ウクライナへの軍事支援と対ロシア経済制裁の継続も確認した。
米国とウクライナの関係修復へ橋渡し役を務めるとともに、欧米の分断を防ぐ努力が求められる。
石破茂首相は3日の国会で「米国の関与をつなぎ留め、先進7カ国(G7)全体の結束をどう図るか、さらに尽力したい」と述べた。公正かつ永続的な和平の実現に日本の存在感を示してほしい。